現在、厚生労働省は、児童相談所が一時保護を行うに際して「一時保護状(仮称)」を取る新制度を構築し、措置の妥当性を裁判官に判断してもらう仕組みづくりを目指すとの方向で動いています。

当該新制度の骨子案については、以下のページを参照ください。

https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000851557.pdf

 

当該新制度については、司法審査に子どもの意見を十分に反映させる制度が構築されていないことや、児童相談所が一時保護の決定に当たって慎重になることが予想されているところです。

子どもセンター・ピッピは、子どもシェルターを運営する立場から、十分な議論、検討がなされずに骨子(案)の内容に基づいて、法制化がすすめられること等について、以下のとおり意見書を提出しましたので、皆様にお知らせします。


令和3年11月30日

特定非営利活動法人 子どもセンター・ピッピ

理事長 大倉 浩

意見書

子どもが安心して生活できる場所を

私たちは、埼玉県で子どもシェルターを運営する特定非営利活動法人です。

一時保護の開始時に司法審査を導入することによって、保護者等からの分離が認められず、子どもの生命身体自由が損なわれることのないようにしていただきたいと思います。

先日、13歳の女子から、家にはいられないから家を出た、シェルターに入れるなら入りたいが、だめなら繁華街に行くという電話を受けました。私たちのシェルターは令和3年9月まで休止しており、同年10月にシェルターを再開したのですが、再開すると、連日、入所の相談があります。相談者は、子ども自身や、学校などの支援者です。子どもたちには、安心して生活できる場所と、信頼できる大人が必要です。

子どもシェルターは、保護者等からの身体的・性的虐待、不保護のために家を出たいという子どもの緊急避難場所です。私たちは、子どもたちに対し安全で安心な場所を提供するとともに、弁護士に、入所した子どもの担当をお願いしています。

子どもシェルターへの入所は、児童相談所からの委託を受けた一時保護の制度を利用しています。ですから、児童相談所が、私たちのシェルターに一時保護の委託をしなければ、家を出たい子どもの緊急避難を援助することができなくなります。したがって、司法審査を導入することによって、児童相談所が一時保護委託に消極的になることは、子どもの利益になりません。司法審査の導入にあたっては、子どもの最善の利益を守るための躊躇なき一時保護の運用を損なわない観点が取り入れられるとのことですので、ぜひそうしていただきたいと思います。

児童相談所が一時保護委託に消極的になるのではないかと、私たちが懸念している理由のひとつに、司法審査に要求される証明の程度があります。一時保護のはじめに、虐待について高度の証明をすることはほとんど不可能です。子ども本人や支援者からお話を聞くと、子どもが受けた虐待について語ることはできるのですが、子どもの話以外に、傷の写真や診断書など客観的な証拠があることはほとんどありません。ですから、子どもの話以外の証拠がなければ、一時保護が認められないとすると、今、シェルターで受入れている子どもたちを守れないことになります。そうならないようにしていただかなくてはなりません。

また、私たちのところに連絡がある事案は、どれも緊急のものばかりです。司法審査の準備のために一時保護が遅れるということになれば、助けられる子どもを助けられないことになります。緊急の一時保護が直ちに認められるようにしていただく必要があります。さらに、その後の司法審査の手続きが難しいということになると、やはり児童相談所は緊急の保護に躊躇するかもしれません。そうならないようにしていただかなくてはなりません。

加えて、子どもが分離を希望しているということも、一時保護を認める必要が高いといえます。ですから、子どもの意向が司法審査の判断者に届く仕組みが必要です。子どもの意向が司法判断に反映することは、子どもの意見表明権の保障の観点からも重要なことです。したがって、子ども自身の意見が、司法審査の判断者に届けられる仕組みはぜひ設けていただきたいと思います。

以上のとおりですので、骨子(案)の内容にもとづいて法制化がすすめられるとすると、児童相談所が一時保護に消極的になり、そのために、保護者等からの分離が認められないことになるのではないかと危惧しています。この骨子(案)にもとづいた法制化には反対です。司法審査の導入のために保護者等からの分離が認められず、そのために、子どもの生命身体自由が損なわれることのないようにしていただきたいと思います。

以上